[北の大地では、神もまた食卓に降りてくる]
北の大地、網走。物語が帰結する聖地へ
2026年3月、映画『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』が公開されます。
明治末期の北海道を舞台に、金塊を巡る物語が大きな節目を迎える場所。それが網走です。
ここは物語の終着点であると同時に、厳しい冬の自然と向き合いながら生きてきた人々の「祈り」が、今も静かに息づく土地でもあります。
作中で描かれる食の場面は、単なる栄養補給ではありません。
命をいただくことへの敬意と、自然との関係性が、丁寧に描かれています。
今回は映画の舞台・網走を拠点に、アイヌ文化が守り抜いてきた精神性と、現代の食卓に迎えられるヒグマとエゾシカの物語をたどります。
ここでいう「参拝」とは、神社に手を合わせる行為に限らず、神と向き合い、その力を受け取り、食を通して身体に迎え入れ、日常へ持ち帰るまでの一連の行為を指しています。
ヒグマは「山からのお客様」である
キムンカムイ(山の神)という存在
アイヌ文化において、ヒグマは「キムンカムイ(山の神)」と呼ばれます。
それは単に恐れられる存在ではなく、「肉と毛皮という贈り物を携えて、人間の村を訪れてくれる神様」だと考えられてきました。
ヒグマは、自然界の力そのものを体現する存在です。
人はその力を奪うのではなく、敬意をもって受け取る。その姿勢が、アイヌの世界観の根底にあります。
イオマンテ(神送り)という名の直会
キムンカムイを丁重にもてなし、その魂を天へ送り返す儀式が「イオマンテ(神送り)」です。
この儀式では、神から授かった肉を皆で分かち合い、感謝と祈りを捧げます。
いただくことと、送り返すこと。
この一連の行為は、本サイトで大切にしている「直会(なおらい)」の原初的なかたちともいえるでしょう。

薬喰いとしてのヒグマ|冬を越える生命力
ヒグマの肉は、厳しい冬を生き抜くための「薬」でもありました。
とくに珍重されてきたのが、白く澄んだ脂です。
口に含むと、森を思わせる清涼な香りが広がり、身体を芯から温めてくれます。
ただし、ヒグマは滅多に出会えない特別な神様です。
現代においても流通量はごく限られており、出会えたならば、それは一生に一度の「特別な直会」だといえるでしょう。
天からの授かりもの「エゾシカ」という慈しみ
ヒグマが特別な神様であるのに対し、人々の日常を支えてきた存在がエゾシカです。
アイヌの伝承では、シカは「天から降ってきたもの」だとされています。
食べ物がなく困っている人間を憐れみ、天上の神がシカの群れを地上へと授けた、慈愛に満ちた物語です。
アイヌ語でエゾシカを指す「ユㇰ」は、「獲物」そのものを意味する言葉でもあります。
それは、神様が人間のために用意してくれた、日々の恵みでした。
養生の知恵としてのエゾシカ
ヒグマが強い「活力の薬」なら、エゾシカは身体を整える「養生の薬」です。
高タンパク・低脂質で、鉄分も豊富。
現代人にとっても、理にかなった滋養食といえるでしょう。
網走の宿や店で出会うジビエの多くは、このエゾシカです。
私たちは「天からの授かりもの」をいただくことで、北の大地の力を静かに身体へ取り入れることができます。

網走で「カムイ」に出会う|信頼できる通販という選択
網走を旅して感じた「神々の滋味」は、旅のあとも続けることができます。
ヒグマやエゾシカといった貴重なジビエは、信頼できる処理と管理のもとで流通している専門店を通じて、自宅へ迎えることが可能です。
ここでは、北海道の自然と真摯に向き合いながら、確かな品質のジビエを届けている二つの拠点をご紹介します。
狩人の蔵(北海道・帯広)
狩人の蔵は、エゾシカとヒグマを扱う食肉処理場です。
店舗販売は行っておらず、商品は倉庫内の冷凍庫で厳重に管理されています。
事前に連絡をすれば、必要な品を用意してもらえる仕組みで、通販を中心に運営されています。
店主自らが30年以上にわたり、北海道十勝の山でエゾシカを捕獲してきた猟師でもあります。
「美味しくて栄養価の高い鹿肉を、もっと多くの人に食べてもらいたい」という思いから、10年以上にわたる試行錯誤の末、臭みのない鹿肉の処理・加工方法にたどり着きました。
狩猟後すぐに行う的確な処理、速やかな搬送、徹底した温度管理。
その積み重ねによって、一般に抱かれがちな「鹿肉は臭い」という印象を覆す、澄んだ味わいのエゾシカ肉が生まれています。
狩人自らが衛生管理された処理場で加工し、納得のいく品質のものだけを販売。
家庭で扱いやすい形に加工された鹿肉は、「癖がなく美味しい」と長く支持されています。
>>狩人の蔵[公式サイト]
狩人の蔵って名前で、処理加工販売を父がやってます(´ー`)2時間以内に持ち帰って、皮を剥いで半身の状態にしないと、蒸れてしまって臭くて美味しくない肉になってしまいます。 pic.twitter.com/i9HB6J6wrA
— ゆうちん (@yuchin01) February 21, 2021
馬木葉(まきば/北海道・白糠町)
馬木葉は、高たんぱく・低脂肪で知られるエゾシカ肉を、安定した品質で提供している処理施設です。
捕獲後すぐに血抜きを行い、肉質を損なわないよう迅速に処理することで、柔らかく、臭みのない鹿肉を追求しています。
同社は、えぞ鹿の捕獲後処理だけでなく、山中や狩猟現場から処理施設までの回収・搬送も担っています。
専用の搬送車両を用い、温度管理を徹底しながら運搬することで、新鮮な状態を保ったまま加工へとつなげています。
また、地域の猟師と連携し、他のハンターが捕獲したえぞ鹿の集荷や搬送をサポートする役割も果たしています。
資源を無駄にせず、より多くの人に安全で美味しい鹿肉を届ける。
その姿勢が、公式通販で扱われる鹿肉一つひとつに反映されています。
>>馬木葉[公式サイト]
白糠の馬木葉さんより蝦夷鹿肉ロース🦌入荷しました。
今の時期が1番脂が乗っていて美味しいとのこと。
是非ご賞味ください。#鹿肉#ロース#旬 pic.twitter.com/2OekP0Ogvo— 串あげ処のどか (@kushiage_nodoka) November 28, 2021
まとめ|物語を、身体に取り入れる旅
映画『ゴールデンカムイ』が描くのは、金塊争奪の物語であると同時に、北の大地で命と向き合ってきた人々の姿でもあります。
網走の風土に触れ、アイヌ文化が大切にしてきた「神を迎え、送り、分かち合う」という考え方を知ることで、作中の食の場面はまったく違った意味を帯びて見えてきます。
ヒグマは特別な神として迎えられ、エゾシカは日々の命を支える恵みとして授けられてきました。
それらをいただく行為は、単なる食事ではなく、自然と人との関係を身体で受け取る時間でもあります。
旅先で味わう一皿も、帰宅後に自宅で迎えるジビエも、その本質は変わりません。
神と向き合い、その力を食を通して身体に迎え入れ、日常へと持ち帰ること。
その一連の流れこそが、この地における「参拝」のかたちなのです。
物語を読むように土地を歩き、味わうように文化に触れる。
網走は、そんな体験を静かに受け止めてくれる場所です。

